2014年10月5日日曜日

パキート・デリベラ&トリオ・コヘンテ@ブルーノート東京

台風が接近するとは思いも寄らず、1月ほど前に予約をしてしまいました(笑) おまけに、古すぎてもはや入手できない携帯電話のバッテリーがついに使えなくなったので、今日は豪雨のなか、東京をあるきまわることになってしまったのですが、こちらはまた別の話ということで・・・。

昨年レコーディングしたこのアルバムで、ラテン・ジャズ部門のグラミー賞を取ったコンビの来日です。キューバン・ジャズの伝説的な名グループ、イラケレからそのキャリアをはじめ、全米進出した後も第一人者として活躍するラテン・ジャズの重鎮であるパキート・デリベラと、若手から中堅どころ、といった新進のブラジリアン・ジャズのトリオの組合せが、新鮮なだけにとどまらない深い音楽性を持っていたので、機会があればぜひ聴きたいと思っていたところだったのでした。

トリオのみの演奏で幕が開きました。ブラジルといっても、ボサノバであるとか、ミナス系とか、MPB
系といった、何か典型的なジャンルに属しているという感じではなく、コンテンポラリーなジャズのメロディーやハーモニーとブラジルの複雑なリズムをスマートにこなす洗練されたグループといった印象です。

非常に達者でセンスもよい演奏なのですが、最初はさすがに手探り状態なうえ、圧倒的に強力な個性がある、という感じではなく、贅沢をいうとちょっと薄いかなあ、という気もちらっとしたのですが、次の曲でパキート御大が登場すると、すぐにその圧倒的な存在感でステージが盛り上がりました。

躍動感にあふれた溌剌とした演奏で、随所に特有の律動を含んだうねりが感じられました。ラテンアメリカ音楽のなかで、キューバとブラジルは両巨頭とも言うべき存在なので、それぞれ特徴があってノリが違うところもあるのですが、パキートの器の大きさ、懐の深さと、トリオの技術の高さ、感性の柔軟さがあいまって、素晴らしい演奏になっていました。

とにかくパキートさんは茶目っ気たっぷりでした。聴いたのが、2日間の公演の一番最初のセットだったこともあり、小さなハプニングもあったのですが、全て明るい方向に変えてしまいます。彼のサックスはベルのふちからアームで固定した小さなマイクで音を拾うようになっていたのですが、アドリブの途中でそれが落ちてしまったとき、アドリブのフレーズを歌いながら拾って取り付けなおしたりしました。音楽の流れを乱すことなく、そういうことを気軽に行うあたり、さすがにラテン系だなあ、と感心しました。

お客さんにも、声を上げたり、メロディーを合唱するよう要求したりします。師であるディジー・ガレスピーに捧げた "I remember Diz" というバラードのエンディングをカデンツっぽく演奏しているうちに、「ソルト・ピーナツ」のフレーズを折りこみ、観客に、例の掛け声を促していました。てっきり、その場の思いつきでやっているかと思っていたら、すかさず、引き続いて、「チェニジアの夜」に入ったので、気楽にやっているようでいて、実はいろいろ段取りを考えていたのかもしれません。

その間も御大のサックスは躍動し、クラリネットはよく歌い、バックのトリオも次々に妙技を繰り出し、一体になった熱演を繰り広げるようになりました。もちろん、会場も大盛り上がりで、私も、外が豪雨であることなどすっかり忘れ(笑)、とても幸せな時間を過ごすことができました。

大好きなピシンギーニャの「1×0」がアンコールで演奏されたのも、嬉しいことでした。

実は、パキートさんと、この前の東京ジャズでじっくり聴けなかったのが欲求不満気味だった小曽根真さんが、12月に共演するコンサートも予約しています。パキートさんも小曽根さんも1度は聴いた後になるわけだし、それでも聴きにいくか迷った挙句にチケットを買ったのですが、今日の演奏を聴いたら、俄然、楽しみになってきました(笑)