2014年7月15日火曜日

ワールドカップ後半

ワールドカップも終わってしまいました。

楽しみ、と、というより、おそるおそる、という感じで興味深かった3位決定戦は、結局、ブラジルによいところがないままのオランダの完勝でした。実は、少し寝坊して、テレビをつけたのが開始5分くらいだったのですが、早くもオランダが先制していて、あらら、と思った記憶があります。復帰したチアゴ・シウバがロッベンの突破を阻止しようとしたとのことで、後からVTRをみると、正確には、レッドカードで一発退場かつペナルティ・エリア外でのフリーキックが妥当なようだったのですが、審判がそのように感じたのか、せっかくチームに安定をもたらすのではと期待されて帰ってきた主将を開始数分で去らせるのに自らの生命の危機を感じてバランスをとったのか(笑)、イエローカードでPK、ということでファンペルシが決めて先取点が入ったようです。

その後は、あれだったら、むしろ一発退場だったほうが悲劇性や審判への怒りが増した分、観客の失望が少なかったのではないか、とさえ思える展開で、もう一度カードが出たら退場になってしまうので積極的になりにくかったのかもしれないチアゴ・シウバと、点を取るのに攻撃参加したいけど、守備が手薄になって大量失点は避けたいので迷っているようなダヴィド・ルイスとを中心としたディフェンスが頼りなくなってしまい、2点目も入ってしまいました。戸惑うダヴィド・ルイスの表情を見ていると、ナイキの「リスク上等」というコマーシャルが、何か、悪い冗談にしか見えなくなってきました。

オランダもその前に2試合続けて120分を戦っているので途中からは疲れも見え始めたうえ、前線でキープするスナイデルもいなかったせいもあるのか、守備を中心にしてカウンターを散発的にしているという感じだったのですが、もし、何かの拍子にブラジルが得点したら再びスイッチが入ってすぐに突き放せるのではないかとすら思えるくらいで、2-0が続いている間も、あと1点ブラジルに入ればその後の展開はわからなくなる、というような印象を抱くことはできず、何か、点差以上に内容に差がついてしまっているような感じで、後半にオランダが点を追加して3-0になり、試合が決まってしまいました。 

観客の代表へのブーイングというのは、普通、お前ら頑張ればもっとちゃんとできるだろ、という叱咤激励だとおもうのですが、この試合で起こった地響きのような音響は、それとは全く異質な、軽蔑、侮蔑といった感情がにじみ出ていました。ちょっと思い返しただけでも、ロマーリオ、ロナウド、リバウド、ロベルト・カルロス、ドゥンガ、ロナウジーニョなどなど、輝きに満ちたいくつかの時代の名選手たちの記憶が少しでもある者としては、フィールドで怯えるセレソン、というのは信じられない光景でした。

ファン・ハール監督のモチベーションの上げ方も巧みだったようです。優勝を目前にして敗れてしまったあとの3位決定戦への気持ちの切り替えは難しいようですが、試合前のインタビューでも、これで3位決定戦に勝てば、(準決勝はPKで敗れたので)自分たちは試合に負けないまま帰国することになる、とか、自分の代表監督の最後の試合を勝利したい、と話していて、かつて、3位決定戦に敗れてしまったときの代表選手だったスタッフがその後悔を選手たちに話した、という報道も伝わってきましたし、さらには、それまで試合に出ていなかった控えのGKを先発させるような進言もあったようなのですが、レギュラーのシレッセンを先発させ、勝ちが確かになるまで交代させなかったなど、あくまでも、勝ちにいく、という姿勢を明確にしていたように思えます。どちらかというと、勝たなければいけない理由が切実なのはブラジルだったはずですが、余りにもショックが大きかったせいか、百戦錬磨のスコラリ監督も切り替えがうまくいかなかったようです。

この試合の前に延長を含めた120分の試合を2回続けた上、中2日で試合に臨んだにも関わらず、さすがに疲れは見えたものの90分を走りきった後、テレビカメラに例の投げキッスをして、いやあ、このチームで優勝することだけ目指していたからねえ、3位決定戦なんて意味あるのかなあ、でも、全力を出し切ったし、俺のタンクは空っぽだよ、ははは、と笑っていたロッベンと、試合途中から足が完全に止まり、憔悴しきったブラジルの選手たちを見比べると、やはり、肉体的な疲労より精神的な疲労のほうがダメージが大きいのだなあ、と、つくづく感じてしまいました。

ブラジル代表の選手たちには、なるべく早く、フットボーラーとしてのプライドと自信を取り戻してほしいなあ、と、おせっかいながらも、願ってしまいます。

そして、決勝戦です。アルゼンチンですが、マスチェラーノの献身的な守備も光っていましたが、中心はやはりメッシだったのでしょう。走行距離が他の選手より極端に少なく、全然守備をしない、と非難されていましたが、決して体格がよいとはいえない彼が無理にディフェンスをして故障でもしてしまったら、チームが根本から崩れ去ってしまったかもしれません。段々ステージが上がってきて相手チームの守備が優秀になり、グループリーグのときほど自由に攻撃ができなくなっても、チームメートからの信頼は全く揺らいでなかったようですし、ネイマールが出られなくなってからのブラジルのことを考えると、あれでよかったのだろうなあ、と、思います。

ドイツは、若い優秀なタレントがたくさんいたのですが、オジサンとして(笑)気になるのはやはりクローゼでした。 2002 年から4大会続けて出ている選手というのは、あとは、今回、残念な終わり方をしてしまったスペインのGKのカシージャスくらいしか思いつきません。2002 年のときはほとんどのシュートがヘディングで、キックのできない一発屋、というような評価がほとんどで、そのときのスターだったロナウドを上回る通算ゴール数を上げるとは誰も思っていなかったでしょう。 その後、巧みに足を使うようにもなり(笑)、世界のサッカーの戦術が変わるのにもきちんと順応して、常にベスト4以上に残っていたドイツで代表に選出され、結果を残すのは本当に偉大なことだと思います。

それに加えて、このクローゼという人は、本当に「いい人」のようで、所属クラブのラツィオの試合で、ペナルティエリア内で転倒して審判がPKを宣告したのに、いや、自分が転んだだけで相手に倒されたわけではない、と、取り消させたり、ゴールを決めた後に、相手チームの選手がハンドだと抗議をして審判が確認しにきたら素直にそれを認めた、というエピソードがあるそうです。ゲルト・ミュラーの持つドイツ代表の通算ゴール数の記録を塗り替えたときも、やはりゲルトは偉大だよ、彼の記録を抜いたといっても倍の試合数かかっちゃったからねえ、というようなコメントをしたそうで、そんなことを聞くと、いや、その倍の試合出られる君も偉いよ、と思わず言いたくなってしまいます(笑) 今回も、記録を抜かれたとはいえロナウドのほうが偉大だった、などと言われても、そう、ロナウドは偉大だったよ、などと答えていたようです。決勝戦、ノーゴールでベンチに下がるときも、替わりに入って決勝ゴールを決めることになるゲッツェに、お前ならばできる、と、励ましたのだそうです。

記録達成の直前、相手チームのディフェンダーに足を蹴られていてトレードマークの宙返りもできなかった、とか、決勝戦でゴールを決めて派手に引き離すこともなく1点上回っただけの記録で終わった、というあたりの地味さも、いかにも、という感じで好感が持てます(笑)

もちろん、押しも押されもせぬ一流選手なのですが、バロンドールをとることもなかったし、今で言う、メッシや、クリスチャーノ・ロナウドや、ネイマールや、たぶん、これからハメス・ロドリゲスあたりがそうなるような、ビッグクラブが移籍金 100 億をかけて奪い合う(笑)、というレベルではなかった、といえなくもない彼が、息の長い活躍をして、これだけ凄い記録を作れた、ということは、本当に偉いなあ、と感心させられます。記録達成と共に、4回目にしてついにワールドカップを掲げることができたのを、心から祝福したいと思います。

まあ、そんなこんなでワールドカップも終わり、これから、何を楽しみに生きていけばいいんだ、という気分になり、とりあえず、ライブを2つほど予約しました(おいおい・・・笑)。

それにしても、例えば、アイドルに熱狂するのを見ても全く理解できず、バカじゃないの、と思うのに、サッカーに夢中になる人々には共感してしまうのは、我ながら、身びいきかなあ、と思います。