代数の講義で、剰余群を定義したあと準同型定理や同型定理を説明しました。
大抵の群論の本では、群 $G$ の部分群 $H$ を法とし、$a\in G$ を代表元とする剰余類
\[
C(a) := \{ g \in G \ |\ g \equiv a\ ({\rm mod}\ H) \}
\]
について、
\[
C(a) = aH := \{ah \ |\ h\in H \}
\]
であることを示した後は、剰余類も $aH$ と書くことにして、正規部分群 $N$に対して剰余群
$G/N$ の構造を入れるときの演算も、
\[
(aN) (bN) := ab N
\]
のように定義しています。群論の講義を初めて担当した頃、私もそうしていたのですが、一定の割合で、
\[
(aN)(bN) =abNN = ab N
\]
みたいな計算 (?) を書く人がいます。記号から発せられる思い込みというのは強いようで(単に教え方がヘタなせいかもしれませんが(笑))、何度注意しても減らないので、段々こちらも苛立ってきて(笑)、ある年から、$G/N$ の要素は全て剰余類で書くことにしました。例えば、$N$ を法として$a\in G$ を代表元とする剰余類を $C_N(a)$ みたいに書くことにして、演算を
\[
C_N(a) C_N(b) := C_N(ab)
\]
と定め、それで押し切っていたのです。複雑になる上にスタンダートな記法から離れてしまうのですが、どっちにしろ代数を担当するのがほぼ私ひとりだったので、上のような間違いをする人はいなくなった(苦し紛れに思い込みを書こうとする人は最初から何も書けなくなっただけかもしれませんが(笑))こともあり、代数関係の講義全部で、その記号で通してしまっていました。
昨年度、弘前で群論を担当したとき、次の年から他の先生が教えられるのだろうから普通にしたほうがよいだろう、と、何年ぶりかで剰余群の要素を $aN$ と書くようにしたのですが、改めて講義してみると、これはこれで便利なのですね。例えば、第1同型定理 $G_1/N_1 \simeq G_2/N_2$ や、第2同型定理 $H/(H\cap N) \simeq HN/N$ の同型対応を具体的に書くときも、
\[
aN_1 \ \longmapsto \ \varphi(a) N_2, \qquad
h(H\cap N) \ \longmapsto \ hN
\]
と、すまして(?)いることができます。剰余類で書こうとすると、第1のときは、定義域の要素は群 $G_1$における剰余類、値域の要素は群 $G_2$ における剰余類で、第2のときは、定義域の要素は群 $H$ における剰余類、値域の要素は群 $HN$ における剰余類なので、同じ記号を使うのも気が引けてしまい、
\[
C^{(1)}_{N_1} (a) \ \longmapsto \ C^{(2)}_{N_2}(\varphi(a)), \qquad
C_{H\cap N}(h) \ \longmapsto \ C'_N(h)
\]
のように添字やダッシュをつけたりしてしまい、受講生の方々にとっては、おそらく、こちらが何を気にしているのかよくわからないであろうことで(笑)、ごちゃごちゃしていたのでした。
今年度、どうしようか迷いながらも、結局、以前のように剰余類で書くことにしましたが、どちらがよいか、まだ、すっきりしないままです。
まあ、こんなことは余り気にする必要はないことなのだとは思いますが(笑)