2014年5月11日日曜日

Antonio Adolfo "Rio, Choro, Jazz"

しまったなあ、というのが最初の率直な感想でした。ライナーノーツの経歴を見ると、かなり以前から活躍されている方のようですので、CDショップでブラジル音楽を物色しているときに、前の作品のどれかを視線が素通りしたことはあったのだと思います。この手の音楽は大好物で(笑)、ある程度馴染みがあると思っていたのですが、こんな素晴らしいプレイヤーを全然知らなかったのは迂闊だったなあ、と反省しました。

ブラジル音楽の創建期の名作曲家、エルネスト・ナザレー (1863-1934) の作品集です。19 世紀から続く、最も古いポピュラー音楽のひとつであるショーロのオーソドックスなスタイルはもう確立していて、ある種の伝統芸能になっている側面もあるのですが(そして、それはそれで素晴らしいのですが)、このアルバムでは、ナザレーの楽曲をジャズやボサ・ノヴァのハーモニーやリズムを用いて再構成し、よりモダンな形で演奏しています。 

こういう企画には特有の難しさがあるように思います。「現代への伝統の回帰」などと肩肘張ってしまうと息苦しくなってしまいますし、かといって、いじくりまわしてわけがわからなくなってしまったり、安直なイージー・リスニングになってしまうのも困ります。その辺の匙加減が絶妙で、原曲のよさを活かしながらも、今風の瀟洒なスタイルに編曲されています。その当時、ナザレーの音楽を聴いて感じた「粋」な部分とはこういうことなのではないか、ということが、昔のスタイルを忠実に再現するよりも感じられる、とさえ思えます。

機会があったら、この方の他のアルバムも聴いてみようと思います。