この前にボッティチェリの絵を見たのがきっかけで、「春の戴冠」を本棚から取り出し、読み出したら止まらなくなり、その流れで、辻邦生さんの「西行花伝」、「ある生涯の七つの場所」などを読み返していました。
最近は他のジャンルの読書が多いのですが、10 代から20 代前半にかけて小説ばかり読んでいて、その頃に夢中になっていた作家でした。私が何だかわからないけれど妙に楽しそうに生活しているのは(笑)、晴朗感にあふれ、生きる歓びに満ちた、この方の作品を読んだことも大きかったのではないかと思います。今、書店に並んでいる小説の多くを、おそらく、私は楽しめないと思いますので、若い時期に辻邦生という作家に出会えたのは幸運でした。
「ただ自分のなかにいる人間を信じようと思う。いまは、各人がそうして崩れそうになる理想を守るしかないんじゃないかね。声高く叫ぶ時代じゃない。みんながじっと耐えて、冬の雪に草花が地面の下で芽を大事に守るように、人間という理想を守る時代なのだと思うよ。」という登場人物のせりふが、ふと、目にとまったりしています。