ファースト・セットを聴くために、17:00 過ぎに大学を出て、店についたのが 18:30 頃でした。早めに入場できたときは通路側の席に案内してもらえるのですが、この時間だと、両側、人に挟まれるところになってしまいます。その片側で、バブリーなおじさまが同行の女性にジャズの薀蓄を語っていて、その必死さで落ち着かない気分になってしまいました(笑)
カルテット・レジェンドは、ベニー・ゴルソン (ts) 、ケニー・バロン (p) 、ロン・カーター(b)、レニー・ホワイト(dr)というオールスター・セッションで、先週の東京JAZZで聞き逃したので、聴いてみようかと思ったのでした。
レジェンドの筆頭は、やはり、ベニー・ゴルソンでしょう。ハード・バップの名演に数多く参加しているだけでなく、作った名曲は数知れず、という感じで、今日も、そのうちのどれが聴けるだろう、というのは楽しみのひとつでした。
早速、幕開けから "Stable Mates" で、これは、ゴルソンがマイルス・デイビスと知り合うきっかけとなった懐かしい曲だそうです。
さすがに、アルバムで聴いていたような、かつての、ゴリゴリと荒れ狂うアップテンポでの演奏や、サブトーンを聴かせたビタースイートなバラードを成り立たせていた、力強い、太い低音はあまりみられませんでしたが、御年 85 歳の彼にそれを要求するのは酷なのでしょう(単に、そのとき調子が悪かっただけかもしれません)。使える音で、確かに、きちんと曲の雰囲気を作り上げていました。この前のルー・ドナルドソンがあまりにもよかったので、過度な期待をしてしまったのかもかもしれません。
作曲・演奏の才だけではなく、気がきいて、面倒見がよい人なのだそうです。ときどき、思い出話を挟みながらの丁寧なMCも珍しかったですし、聴衆に対しては、とても折り目正しく、誠実に、それでいてユーモアを忘れずに接していました。たぶん、彼の作った名曲だけでも、優に1ステージはできるのでしょうが、他のメンバーのオリジナルも1曲ずつ入れ、さらに全員の見せ場を設定するなど、共演者への気配りも感じられました。
こういう流れで統一されていれば、ちょっとノスタルジックで枯れていても、しみじみと歴史を感じさせる味わい深いステージになったのでしょうが、レニー・ホワイトのドラムが何となくちぐはぐに思えてなりませんでした。そう思ったのは私だけかもしれませんが、一方的に大音量で手数が多く、特に、ステージの前半では、設定したパターンをうるさく叩いて周囲の流れとかみ合っていないような印象を受けました。彼独特のスタイルなのか、さすがに大先輩ばかりで緊張していたのか、その前の大ホールの演奏から切り替えられなかったのか、調子が悪くて細かいコントロールがきかなかったのか、と、いろいろと考えてしまいました。途中、彼のオリジナルをカルテットで演奏したあたりから、大音量は相変わらずでも、周囲とすこしずつ馴染んできたようでしたが、
割を食ってしまった感があったのがケニー・バロンだったといえるかもしれません。 "Someday My Prince Will Come" を、テナー抜きのトリオで演奏して、ピアノの見せ場だったと思うのですが、そのときもドラムの音がうるさく、それに対し、ピアニストのほうは淡々とマイペースで対決姿勢になるという人ではなさそうで(笑)、トレードマークの、珠の転がるような玲瓏な響きが掻き消されていたような印象がありました。実は、今回、彼のピアノを楽しみにしていたので、あのドラムの音をどけてもらえたら、と、ちょっと意地悪なことを考えてしまったくらいでした。
最も気を吐いていたのは ロン・カーターだったように思います。バッキングは相変わらずの安定感でしたし、ベースソロで演奏した "You are My Sunshine" は、インプロヴィゼーションの途中にバッハの無伴奏チェロ組曲を織り交ぜたりして、まさに圧巻でした。
後半になればなるほどまとまりがよくなってきたので、セカンド・セットはもっとよい感じだったのかもしれません。
いろいろ否定的なことも書いてしまいましたが(笑)、それでも、ラストの "Whisper Not" や、アンコールの "Blues March" を、作曲した本人の、しかも、こんなに豪華なメンバーと一緒の演奏で聴けたのは、やはり贅沢な気分でした。