2015年9月6日日曜日
The 14 th Tokyo Jazz Festival "Infinity"@東京国際フォーラム
本日9月6日の東京ジャズの"Infinity" と題された昼の部を聴いてきました。
会場の東京国際フォーラムに到着したのが、希望者参加型(?)ステージの「朝ジャズ・ワークショップ」が外の広場で開かれていた時刻で、日野皓正さんと大西順子さんが飛び入りするところでした。
今回、ようやく「S 席」のチケットを取ったものの 、「S」とは「辛うじて1階席」ということで、広大なAホールの後ろから数列目、下手をすると、2階席の前のほうがステージに直線距離では近いのではないか(笑)というくらいのところでした。持参したオペラグラスが、疎外感を克服するのに大いに役立ちました(笑)
3グループの演奏でした。素人の感想とともに(笑)
エリ・デジブリ・カルテット feauturing アヴィシャイ・コーエン with Special Guest 山中 千尋
: リーダーのエリ・デジブリ (ts) は、最近、台頭著しいイスラエル・ジャズの一翼を担う一員で、バークレー留学後、大物ミュージシャンとの共演を重ね、メジャーデビューをし、世界的に活躍している人だそうです。カルテットのみの演奏でスタートしたときのオリジナルのナンバーは、フォーキーで清澄な曲調でも、リズムやコードが複雑なので環境音楽にはならない、というような感じで、私が勝手に持っている先入観かもしれませんが、イスラエルのジャズらしい印象を受けました。そろそろ、この雰囲気だけでは単調になるかなあ、という頃に、アヴィシャイ・コーエン(tp、本番まで、b のほうのアヴィシャイ・コーエンかと思っていて、始まったとき、ベーシストを見て、あれ?と思ってしまいました(笑)) が登場して、違った雰囲気が加わり、今度は、ちょっとヒリヒリしてきたかなあ、というところで、山中千尋さんが登場して潤いと余裕が加わる(笑)、というように、ゲストの登場の仕方が効果的でした。後半になるにしたがって、リーダーの影が薄くなってしまったきらいはありますが、それでも、熱演が繰り広げられて、充実したステージでした。
日野皓正&ラリー・カールトン SUPER BAND feauturing 大西順子、ジョン・パティトゥイッチ、カリーム・リギンス: ジャズやフュージョンをご存知の方なら、このメンバーをご覧になって、豪華さに驚くとともに、こんなに無茶苦茶に方向性が違う人たちが集まってうまくいくのか? と思うのではないでしょうか。オーソドックスなジャズだけでなく、フュージョンやヒップ・ホップも射程に入れた演奏ができる日野さんですが、日野さんのフュージョンとラリー・カールトンのフュージョンはちょっと違うし、ましてや、シリアスなジャズがメインで、ここしばらくは活動停止をしていた大西順子さんが加わってどうなるのか、全然予測ができず、正直言って、期待3割、不安7割(笑)といったところでした。
ところが、結論から言うと、感動的といってよいほどのステージでした。
その原動力となったのは、異質な組み合わせでも、この状況を楽しんで、充実させてみせる、と思い、大西さんが引退状態であっても、そんなことはどうでもいいから、オレは大西順子と共演したいんだ、と、いうようにみえる、日野さんの貪欲といっていいくらいの前向きさ、純粋かつ、我儘一歩手前というくらいの強い意志だったように見えました。
みんなが楽できない感じで、ラリー・カールトンも、彼一流の手堅く格好良い予定調和的フュージョン(は言い過ぎですか(笑)) ばかりをやるわけにはいかず、曲によってはアコースティック・ピアノとウッド・ベースをバックにフォービートのアドリブをすることになったり、大西さんは大半の曲ではエレピを弾いていたりします。でも、そのいつもと違うことを楽しんでいたようでした。
軽快なフュージョンが続いた後、やおら、日野さんのラップ(?)で "Never Forget 3・11" と始まって、メッセージ色が強いナンバーになったり、多彩なラインアップですが、その中でも、それぞれの見せ場ではさすがというところを見せていました。カールトンは彼にしか出せない粋なフレーズを連発し、日野さんのトランペットは彼の肉声と化し、大西さんもブランクを感じさせず凄まじく構造的なインプロビゼーションを披露していました。フロントが個性的すぎたせいか(笑)、ジョン・パテトゥイッチのベースをじっくり聴く機会が少なかったのがちょっと残念でしたが。
このステージで最も関心がもたれていたのは、もしかすると、日野、カールトンの共演というよりも、大西順子さんの復帰だったのかもしれません。大西さんのアルバムをあまり注意して聞いたりしたことはないのですが、6年ほど前の、やはり東京ジャズでのトリオの演奏のことは鮮明に覚えています。30〰40 分くらいの持ち時間をほぼまるまる使い、フェスティバル的要素の全くない(笑)、延々と密度の濃いインプロビゼーションを繰り広げていて、それにちょっと驚きながらも、ジャズに対して真剣な方なんだなあ、という印象を持ちました。これだけの才能のある方なので、皆、彼女には夢中になって肩入れしているようです。村上春樹さんもずっと以前からファンを称しています。その村上さんに連れられて小澤征爾さんがライブを聴きに行ったときに大西さんが活動休止宣言をしたらしく、それに小澤さんが反対してサイトウ・キネン・オーケストラで、ラプソティ・イン・ブルーを演奏するときのピアノを担当することになったこともあったそうです。今回も、こうして、声がかかったわけですし、村上さんは、大西さんについてフェスティバルのプログラムに特別に寄稿したりしています。その文章によると、大西さんが引退してビル清掃のお仕事についているのはソニー・ロリンズに倣ったものだそうです。ロリンズと同じということは、音楽をやめるのではなく、いつの日か納得した形で音楽をするための修養ということになります。今回の出演がコンスタントな活動の再開となるのかはよくわかりませんが、これだけ支持されている彼女が忘れられるということはないでしょうから、ご自身で納得して音楽する決意をされれば、演奏に触れる機会はできると思いますので、そのときを気長に待とうと思います。もちろん、早いに越したことはないですが(笑)
ハービー・ハンコック&ウェインショーター: 前のステージがとてもよかったので、あとはこの安定のお二人に大団円の感動を与えていただいて、気持ちよく今日のコンサートを聴き終われる、と、ほぼ確信していたのですが、案に相違して、少なくとも私にとっては、そして、おそらく、大半の聴衆にとっても、外れになってしまいました。ハンコックが、アコーステイック・ピアノと、サンプルされた音が入っているエレクトリック・キーボードでラインを提示し、その上に、ショーターがソプラノとテナーで音を重ねるような形で始まりましたが、いつもならば、とりとめないフレーズを連発しているようでも、そのうちにとんでもないところに連れて行ってくれるショーターさんが、単にとりとめのないままにしか聴こえず、ハンコックさんも、もちろん、集中はしていたのだと思いますが、淡々と、ピアノを弾き、キーボードを弾き、と変化を付け加えようとしても、大筋ではずっと一本調子に見えてしまい、目を見張る、というか、はっと聴き入るような展開がほとんど感じられませんでした。今回の「居眠りしている聴衆の数」、「途中退席者数」は、私がこれまでに行ったライブの中でも、ダントツでトップだったと思います。最後のアナウンスで、ジャズの多面性を感じてください、というような、尋常な挨拶をしたハンコックさんに続いて、ショーターさんが、相変わらず謎め いて(笑)、"Never Give Up" と一言だけ言ってステージを去ってゆき、それは、自分はあきらめずに挑戦し続ける、ということなのかなあ、と、最初は思ったのですが、ひょっとする と、お前らあきらめないで俺達の演奏を真剣に聴けよ、ということだったのかもしれません(笑) とすると、彼ら同士には通じる微妙で高尚な音楽的会話をし ていたのかもしれませんが、少なくとも、ほとんどの聴衆には伝わらなかったことは確かなようです。セットの終了直後、さっさと立ち始めた聴衆によって、弱々しいアンコールの拍手は数十秒もしないうちにかき消され、演奏はおろかカーテンコールすらありませんでした。
17:00 過ぎから、中央の広場で、カート・ローゼンヴィンケルのギター・ワークショップがあるらしいので、昼の部終了後、1時間ほど時間をつぶそうとしたのですが、ホールの飲食店は長蛇の列で、周囲を歩いてみると、元来はオフィス街なので休日はほとんどの喫茶店が休みでした。そのうち、折から、豪雨になってきたので、これで野外のイベントはきついかなあ、と思い、そのまま、地下道を通って日比谷駅に出て、帰宅することにしました。